エンジニア組織マネジメントのさらなる進化へ

~合議制 “Committee体制” の導入~

目次

〈インタビュイー経歴・紹介〉
安藤 英男 COO/取締役 最高執行責任者
1997年に株式会社電通国際情報サービスに入社。2004年株式会社エニグモ設立。2005年当社取締役、2010年に当社COO(取締役最高執行責任者)に就任。

木村 慎太郎 / エンジニアリングマネージャー Committee Head
2013年にエニグモにWebアプリケーションエンジニアとして入社。
データ・機械学習・検索の基盤開発・運用を担当するエンジニアチームを立ち上げ、BUYMAのエンジニア組織のマネージャーおよび、組織の運営方針を決定する合議体のHeadを務める。

山本 浩貴/ エンジニアリングマネージャー Committee Vice Head
2016年にエニグモにWebアプリケーションエンジニアとして入社。
現在は出品者向け機能を開発するチームとフロントエンドチームのマネージャーおよび、組織の運営方針を決定する合議体のVice Headを務める。

〈インタビュアー経歴・紹介〉
大谷彰徳/ コーポレートオペレーション本部 人事総務グループ部長
2002年株式会社博報堂入社。アカウントプロデュース職として国内外企業のコミュニケーション施策に携わる。2015年にエニグモに入社。コーポレートオペレーション本部/人事総務グループの部長に就任。採用、人事企画、労務、総務、コーポレートITの領域を統括。

新体制の導入の背景について

大谷:
今回、当社のエンジニア組織のマネジメント体制が大きくリニューアルされましたが、その背景や経緯についてCOOの安藤さん、エンジニアリングマネージャー(以下EM)の木村さん・山本さんにお話をお伺いできればと思います。
まずは本題に入る前に安藤さんにお伺いしたいのですが、COOとしてどのようなことを意識して、日頃からエンジニアの組織やメンバーと関わっていらっしゃいますか。

安藤:
エンジニア以外にも当てはまることですが、特に意識している部分は、まず「人」の部分になります。
どのメンバーに重要なロール(役割)を担ってもらうかの判断はとても大事なため、そこはしっかりと自分なりの確信を持てる状態にしたいと思っています。
技術的な部分は基本的に自分が戦略を立てるわけではありませんが、会社レベルで決めるべき重要なことは、技術的な領域でも重要なロールを担うメンバーとディスカッションした際に、その良し悪しを自信をもって判断できる状態にしています。

大谷:
「どういう人にどのようなロールを担ってもらうのか」という判断は、まさに組織作りにも大きく関わる部分ですが、今回その組織作りの取組みのひとつとして実施された「Committee体制」の導入についてお聞きしたいと思います。

今回、エンジニア組織をCTOや部長を頂点とするワントップ型ではなく、EM陣で構成する「Committee」という合議体を意思決定のトップ機関として新設し、そのHead、Vice Headを1年交代の輪番制で運営するという体制への移行しましたが、その導入背景を教えてください。

安藤:
これまでエニグモはエンジニア組織に関わらず、会社全体として少数精鋭の筋肉質な組織で成長してきました。その為、当社の技術志向の高いエンジニア達には過度なマネジメント負荷をかけずに開発に専念してもらいたいという思いがありました。それがフラットな組織でフルスタックに自分のスキルを発揮できる環境に繋がり、そこを魅力に感じるエンジニアが自然と集まっていました。

そして上場から10年が経ち、技術領域も多岐に広がり、組織やサービスも格段に大きくなり、今までのやり方で組織を最適にマネジメントすることが難しくなってきました。

それまでは経営陣もエンジニアにはマネジメントの負荷をなるべくかけないようにと考えていましたが、当社らしいエンジニア流のマネジメント体制への進化が必要なフェーズになりました。

そしてEMたちからも「組織的な課題を解決したい」「こういう組織にしていきたい」という前向きな意見が自然と出てくるようになりました。そのような中で、これまでのエニグモのエンジニア組織のカルチャーを大切にしながら最適な方向を検討する中でCommitteeというコンセプトが思い浮かびました。

大谷:
新体制の中でも特徴的な「EM陣による合議制」のコンセプトや「CommitteeのHeadとVice Headを1年交代の輪番制」にしようと考えた背景はなんでしょうか?

安藤:
社内のエンジニアで組織のトップの経験がないメンバーでも、ハードルが高くならずチャレンジしやすいようにしたかったのが一つです。また、属人化させず色々なメンバーの意見を取り入れて多面的に進化していく組織体制にしたいと考えました。

属人化しすぎないためにトップが行う業務を分解して「ロール(役割)」という抽象的な言葉で定義し、それをいろいろな人の手で育てていくような体制であっても良いのではないかと思いました。重要な判断をともなうロールなどにおいても、それをサポートする他のCommitteeメンバーも次回自分がやる可能性がある状況に置くことで、「自分だったらどうするか」という視点になり、自分ごと化して業務に取り込むことができます。そういった状態が組織として健全ではないかと感じ、輪番制を取り入れました。

さらに、マネージャーやトップの業務も1つのロールであると考えています。
優秀なエンジニアがエニグモで長く活躍する際に、マネージャーとしてパフォーマンスが高かった人でも、自身がチャレンジしたいことに応じて自発的にスペシャリスト(技術者)に戻るというキャリアがあっても良いと考えています。マネージャーになること=唯一のキャリアステップアップにしたくないと思っています。

マネージャーはあくまで組織の中でマネージャーロールを担っている人という形で定義することで、上下という立ち位置にせず、ある時はマネージャーをやっていたが、ある時はスペシャリストである。らせん階段を登っていくようなキャリアの選択があっても面白いのではないか、それで組織全体にプラスになることもあり、キャリアアップの多様化にも繋がると考えます。
色々な観点でエンジニアが主体的に自らの組織や専門性を成長させていける体制になることを目指したいと考えたのが背景です。

Committee体制の実行に向けて

大谷:
続いて、木村さんと山本さんにお聞きしたいのですが、部長やCTOを置かないフラットな組織運営であるCommittee体制について、初めて方針を聞いた時にどう感じましたか?

木村:
私も、エンジニア組織全体について「自分的にはこうした方がいい」みたいなところは考えていて、実際に話し始めていたタイミングでした。

フラットな組織体制については、他社でトップにCTOがいる場合でも、CTOを補佐するメンバーがたくさんいるCTO室を設置するような会社もたくさんあります。そういったトップを補佐する仕組みが必要であるというのは理解していました。そういったところから安藤さんから提案についても「いいな」と思いました。輪番制についても、Headになることへの心理的ハードルが下がりますし、自分に就任を打診された際もポジティブに受け止めることができました。

山本:
自分も今回の話がある前から、組織的にもう少しやった方が良い部分があるなと感じていました。他社の体制や取り組みを調べてみて、エニグモにはどんなやり方が最適なのかを考えていたので、Committee体制についても前向きにとらえました。

ただ、初めは部長やCTOという分かりやすいトップがいないことについては少し不安もありました。
でも実際にCommitteeが発足したおかげで、組織作りについてEM同士で定期的かつ積極的に会話する場ができたことで、今まで以上に組織がクイックに良い方向に向かい始めたことをすぐに実感できました。

Committee体制の詳細について

大谷:
木村さんが初代Headに決まってから、さらに具体的なCommittee運営に向けた体制づくりに着手されましたが、最終的な実施体制について概略を教えていただけますか。

木村:
繰り返しになりますが、新体制はCTO、VPoEという役職を置かず、複数名のEMがCommitteeという合議体を形成して、意思決定のトップ機関となっています。トップは輪番制となります。優先順位が高い組織課題は分科会を配下に設置して議論・決定のスピードを上げていきます。

Committeeが発足してまず行ったことは、トップが単独で担っていたロール・タスクを分解・抽象化していって組織に落とし仕込み、Committeeメンバーの誰が担当するかを決めていきました。
その際に現在足りない役割や、新たに採用すべきポジションなども同時に整理しました。

山本:
エンジニア組織のトップがやるべき仕事は非常に多岐に渡ります。
トップの役割は、チームのマネジメント(ピープル〜プロジェクトマネジメント)や技術的意思決定、採用・評価に止まらず、システム監査、インシデント指揮、予算・経費管理といった様々な役割があります。技術職から見ると少し敬遠したくなる"雑務”と感じる業務もトップに集まりがちになるので、そういう業務も含めて、誰が担当するか?今後どのように管理・意思決定するのか?をCommitteeメンバー内で前向きに議論しながら決めることができました。

ビジネスサイドとの連携について

大谷:
エンジニアとビジネスサイドが密に連携して業務を推進する当社においては、今回の体制変更はビジネスサイドの特にマネジメント陣にしっかりと理解してもらう必要がありますよね。どのような形でインプットを行ったか教えてください。

木村:
はい。今回の組織体制はエンジニアだけでなく、ビジネスサイドにもリンクすることがとても重要だと考えました。経営陣からも、せっかくなのでオフィスから離れた場所で1日ワークショップ形式で時間を取って共有とディスカッションをしようよ、と提案いただいたのはありがたかったです。

安藤:
エニグモはエンジニアとビジネス側、企画メンバーが一緒になってプロダクト、サービスを創り上げていくことを大切にしている風土です。今回はエンジニア組織のターニングポイントとなったので、ビジネス側の部長や、エンジニアと密に仕事をしているメンバーとは事前にキックオフをし、よく理解してもらい、もし疑問があれば解消しておく必要があると考えました。

やはり、エンジニアとビジネスサイドのメンバーが境界なく同じような価値観で同じような背景を理解した上で、協力・連携して仕事をすることはすごく大切なことです。

木村:
今回のキックオフを通して、エンジニア組織の話にとどまらず、開発側とビジネス側のさらなる連携強化についての議論にも発展し、例えば、全社横断的な重要プロジェクトの推進方針(カンパニーベットの概念)についても自然と議論が湧き起こったりして、非常に有意義な日になりました。
キックオフ終了後、そのビルの屋上でみんなでBBQをやったのもいい思い出です(笑)

今回の記事では新体制(Committee体制)の移行についてお話ししました。後半は新たな開発体制についてお話しします。後半もお楽しみに!