こんにちは、データアナリストの井原です。
この記事はEnigmo Advent Calendar 2025の5日目の記事です。
この記事では手元で手に入るデータ(情報)が限定的でも、出来る範囲で分析を行ってみることは大事なのではないか?というテーマで書いていきます。
私は普段データアナリストとして、データからビジネスの意思決定を行うための示唆出しを主要業務にエニグモで働いています。データアナリストというと、因果推論、統計、Python、AIなど、データを正しく解釈するために、論理的な思考や熟考が要求される、いわゆる左脳的と言われるような学びが多くなる傾向があると思います。そして、そういった左脳的なスキルは実際にデータアナリストにもっとも必要とされるスキルで間違いないと思います。
しかし、一方、ビジネスの現場でデータ分析を主務としていると、左脳的思考だけで十分か?という疑念がつねにつきまといます。なぜなら、ビジネスの現場で必要とされることは、厳密で正確なデータ分析ではなく、ビジネス判断に役に立つ示唆を出すことだからです。
もちろん、そのためには、厳密で正確なデータ分析も求められるところではあるのですが、統計や因果推論の学びを深めていくと、前提とする仮定を達成させることが難しく、完全無欠なデータ分析を行うことは難しいどころか、無理ではないかとさえ思えてきます。
直感やひらめきを重視する理論
ビジネスに必要なスキルは左脳的な論理的思考能力だけではなく、右脳的な直感やひらめきを活かす方法も大事なのではないか。そんなことをここ最近は強く感じながら、答えは出せず、本や資料で学ぼうとしてきました。
主題ではないので、かなり簡単ではありますが、いくつか個人的に参考にした理論を以下にご紹介します。※必ずしも左脳、右脳という切り分けが出来る理論ばかりではないですが、私が今回のテーマの参考となったと考えているものになります。
- センスメイキング理論*1
- 人が曖昧で不確実な状況に直面したとき、過去の経験や社会的文脈を手がかりに「物事に意味づけを行い、理解しようとするプロセス」を指す理論です。情報にストーリー性を持たせることで、人々の行動を可能にすると言われています。
- 二重過程理論*2
- 人間の思考を直感的で無意識的な「システム1」 と、論理的で意識的な「システム2」の2つのプロセスで説明する理論です。状況によって思考の軸を使い分けることが大切とされています。
- ブリコラージュ*3
- 「手元にあるものを組み合わせ、工夫しながら新しい意味や価値あるものを生み出す」思考・創造のプロセスで、既存の資源・経験・道具を柔軟につなぎ合わせて解決策をつくるアプローチです。計画的で目標思考である、従来の計画重視型エンジニアリングと対照的なアプローチとされることがあります。
これらの理論について、論じられている内容は異なるものですが、論理的思考や計画性を特に重視する社会において、それ以外の要素の重要性が示唆されているのではないかと思います。*4
活用事例
とはいえ、これらの理論は抽象度も高く、業務の中で活用するには困難が伴います。
明確な答えはでない中でも、一つの仮説は「ありものでやってみて、発想してみることが大事」なのではないか?ということです。 意識的にやったことではないですが、後から振り返った時に無意識に学びを活かせていたのでは?と思われる事例がありますのでご紹介します。
経緯
BUYMAはファッション系ECの中でも、特にハイブランドと言われるブランドに強みを持つECサイトです。比較的、他ECと比べても、単価が高いことが特徴です。
これは逆に言うと、世の中のトレンドとBUYMAの売れ筋が必ずしも一致していないということでもあり、世の中では売れているけれどBUYMAにはそもそも商品が少ない、というブランドがあります。社内でも感覚的にそのことは認識していても、どのようなブランドが世の中で人気があるのか?そのブランドにBUYMAの伸ばしどころがあるのか?といった点を具体的に分析したことはありませんでした。
分析にあたっての問題
そういった経緯で世の中のトレンドを何とか分析出来ないか?と軽く相談が来たのですが、分析にあたって大きな問題がありました。それは、当然ですが、BUYMA外部のトレンドを知るためのデータは基本的に手元にないという点です。 お金を使えば、データを買う、アンケートを取得するといった方法もあったかもしれませんが、温度感としてはそこまでではなく、何か出来ないかね?という感触でした。
分析の方針の決定
温度感や前後の文脈によっては、「出来ない」という結論も大事かもしれませんが、その時は「意義のある結論を出せるかは分からないが、自力で調べられる範囲で定量化することは出来るかもしれない」という前提をおいて、分析を進めてみることにしました。
具体的には、インターネットで検索して入手できる情報だけで定量化することを試みました。
データの収集と前処理
初めに、検索して入手できる情報の洗い出しを行いました。主に検索、他ECサイトのランキング、SNS、ニュース記事、などが対象になりそうでした。この中でSNSとニュース記事に関しては、純粋なトレンドと広告的な記事を分割することが難しそうだったので、対象からは外しました。
また、検索結果については、LINEヤフー社のDS.INSIGHTを契約していますので、そこからの情報も活用することにしました。
この辺りは、データアナリスト一人で判断するのではなく、関係者とどういうデータが取れて、意味がありそうかをすり合わせながら詰めていきました。今回の手順に限らないですが、アウトプットする前にこういった認識をすり合わせていくことは、後々、期待に応えられるアウトプットを出せるかに直結するので重要なポイントです。
収集するデータを整理したら、その後は手作業でデータを集めていきました。泥臭い作業ではありますが、手作業でローデータを集めることで、分析者としても多少なり売れ筋の感覚を知ることができるメリットもあります。
手作業でデータを集めたら、次にデータを定量化する必要があります。今回集めたデータは、主に「他ECサイトでの最高ランク」「他ECサイトでのランキング登場回数」「検索数」のデータでした。個別に見ていくと解釈が難しいので、データを標準化したうえで項目の加重平均を行い、1次元のデータにまとめました。

参考:標準化と加重平均について
標準化とは、「平均を0、分散、標準偏差が1になるようにデータを変換して、単位の異なる数値を比較出来るようにすること」で、加重平均とは「各指標に重みをつけて重みの高い指標のウェイトが大きく反映されるように平均値を出す方法」です。
例えば、今回のデータで言うと、「他ECサイトでの最高ランク」「他ECサイトでのランキング登場回数」は、せいぜい1~100程度、「検索数」は数千~数万と規模感が異なります。項目それぞれで標準化を行うと、平均や分散が同じ数にまとまるので、同基準で数字の高低を比較できます。 また、加重平均は項目の信頼度に応じて変えるようにしています。例えば、「ECサイトのランキング」は販売個数が分かるわけではないので低め、検索数はおおよそ正しい数字が分かるので高め、といったように設定しています。

グラフへのプロット
標準化と加重平均を経て最終的に計算された数字を仮に「外部トレンド指標」と名付けます。 「外部トレンド指標」だけを見てもいいですが、内部のデータとも比較するため、今回はBUYMAの注文件数を横軸にとり、「外部トレンド指標」を縦軸にとった散布図を作成しました。アウトプットイメージを以下に掲載します。

ブログなので、実数と実際のブランド名は削除していますが、一つ一つの点がプロットされたブランドになります。右にあるほどBUYMAで売れているもの、上にあるほど世の中のトレンドが高いもの、という解釈ができます。
これにより、BUYMAの強みと世の中のトレンドの差を直感的に確認できるようになります。
プロットした図を基に、関係者との議論を行いました。感覚としても大きなずれは生じていなさそうということで、これを基にBUYMAとしてどういったブランドに注力していくべきか、といった議論に無事に繋がっていきました。
重要なポイント
事例紹介は以上になります。出来る範囲でやったにしては、あいまいに終わらず、関係者の反応もあり、営業戦略の一助になったものと思います。「右脳的」とは少し違うかもしれませんが、「収集できるデータの範囲でやってみるか」という、やってみようの発想がアウトプットに繋がる一例になったのではないかと思っています。
ただし、「適当なデータを使ってやってみる」とは似て非なるものであるところは注意が必要です。アウトプットの目的、データの妥当性などの検討は丁寧に行う必要があり、特にビジネス側のチェックは必須だと考えています。今回の分析も本当にそれが外部トレンドを表すものなのか?という点は突き詰めると議論の余地は残ると思います。しかし、どのようなデータを集めるのか?どのように集計するのか?など、分析の途中で確認を踏むことにより、ある程度妥当性のあるアウトプットに繋げられたのではないかと考えています。
まとめ
やや大仰なタイトルをつけてしまいましたが、一番書きたかったことは、「データ分析もとりあえずやってみようの精神は大事なのではないか」ということです。
データ分析を学んでいくと、分析にあたって、厳密な仮定や条件を満たすことが出来ず、妥当性を判断することが難しいことがよくあります。そんな時も、(過程を適切に踏む必要はありますが)「ひとまず、出来ることとある程度の妥当性があればやってみる」「やってみてアウトプットを出すことで議論が進み、妥当性に対しての疑義が挟まれたとしても、そこから、適切な方向に方針転換する」といった手順で分析を進めていくことで、有用なアウトプットに繋げることができるのではないかと思っています。
前述したブリコラージュでは、アウトプットをした後の議論の重要性が語られることがあります。近年だとデザイン思考の発想に近いのかなと思うのですが、「アウトプットする」→「議論する」→「修正する」というループを作り出すことは、データ分析のプロジェクトにおいても有用な可能性があるのではないかと思いました。
本日の内容は以上になります。ご一読、ありがとうございました。 明日の記事の担当はエンジニアの小松さんです。お楽しみに。
*1:参考:
【事例紹介】センスメイキング理論とは?「腹落ち」を最大活用してリーダーとして組織強化の極意を学ぼう | 株式会社ソフィア
優れたリーダーは未来を魅力的に語る 連載 入山章栄の『世界標準の経営理論』第8回 | 組織文化/組織開発|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー
*2:参考:
2つの思考モード(システム1・システム2) | UX TIMES
*3:参考:
ブリコラージュで実現する、「対話」と「受動的な創造性」に満ちた組織──文化人類学の知を組織づくりに活かす方法 | CULTIBASE
ピックアップ:組織の多様性を活かすための3つの手がかり | CULTIBASE
*4:センスメイキング理論や二重過程理論については、世界標準の経営理論(入山章栄(著))に記載があり、こちらもお勧めです